今年は特に長く感じた寒い冬もようやく終わり
短かすぎる桜の季節もいつしか通り過ぎてしまった
美しさを誇る時が、ほんの一瞬で終わりを告げる桜
その花びらが道端に溜まり
道行く人に踏みつけられて無残に汚れている様は
より一層、儚さを感じさせる
だが視線を上へ転じれば
咲き誇っていた花弁の代わりに
今はまだ小さな新緑が
元気に顔を覗かせている
これから夏に向けて
青々とした葉を枝という枝に広げ
萌えるような緑を身に纏う
その新緑もいつしか大きな葉に変わり
やがて秋の終わりには
寒風に身を任せ飛び散ってしまう
一年の内に己の栄枯盛衰を
これほどまでにはっきり現す生命も
他にはなかなか存在しないようにも思える
人々は皆
春のほんのひと時だけ桜に注目を注ぎ
そこに集い、それを愛でる
その季節が過ぎ去れば、その存在さえも忘れてしまうのに
だが、私はむしろ
葉桜の方が断然好きである
まぶしいほどの鮮やかな色彩を放つ新緑
真夏の暑い季節には、その葉の色を濃い緑に染め
厳しい陽光から私達を守るかのように
木陰を提供してくれる
川沿いに並んだ桜並木は
人々に忘れ去られた真夏日に
やさしい涼風をもたらしてくれる
それが桜の木だとは特に意識もさせずに
私はそんな桜が好きだ
人々が注目しない季節の葉桜が
今年も葉桜が広がり始める季節
そろそろ準備を始めるとしようか